アイホート
降臨描写 |
深い迷宮の奥底から、迷宮の主が姿を現した。それは足音など気にもせず、ただその圧倒的な体積という質量の武力でもって自分の子らの餌となる生き物を捕獲するためにやってきたのだ。 青白く血の通っていないかのような肉は奴が動くたびにたわみ、ねじれ、しかしかすり傷ひとつつく様子もない。 無数の足を迷宮の壁に擦りつけ、トンネルを掘削するかのように歩く姿はどこか虫めいて感じられる。 前も後ろもわからない肉塊が辛うじてこちらを見ているとわかるのは、その顔の全面にぶつぶつと生えるキイチゴめいたゼリー状の目玉があり、そして犠牲者を噛み殺し迷宮を掘り進めるためであろう鋭くとがった牙を備えた円形の口が肉を掻きわけくぱりと開いたのが見えたからだ。 |
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特殊な行動:雛を植え付ける |
それは一種神秘的な体験とも呼べた。 目の前の恐ろしい化け物が人間という別種に向かってテレパシーで語り掛け、意思の疎通を行うのだから。しかし人間にとって有用であると言えるのはそれまでだった。 アイホートは犠牲者が雛の苗床になるを了承した途端、掘削機めいた口を肉の合間から掻きわけ開くと、そこからゆるくカーブした注射器の管のようなものを現したのだ。 まるで催眠術にでもかかったかのように虚ろな視線をした犠牲者は目の前の光景から逃げる様子さえ見せず、虚ろな目をしたままこれから起きるであろうおぞましい儀式を受け入れている。 麻痺毒を打ち込まれた獲物のように動かぬ人間の、最も皮膚が薄い部分──へそに向かって、注射針をつぷりと差し入れる神格は、そこが最も気付かれにくく最も容易く雛を生みつけられる場所であることを何百何千といった体験から導き出しているらしかった。 ぐじゅりぐずりと音をたて、自らの内部から絞り出すように卵管へと雛を送り込む。苗床となった犠牲者もまた、自らの体内に雛が潜り込む違和のせいか何度か体を痙攣させ、やがて両者の動きが止まった頃に、注射器めいた卵管がほとんど血も出させず引き抜かれた。 苗床化が終わったのだ。 |
致死描写 |
アイホートの巨体が迫る。 それは牙でもなく、足でもなく、ただその巨大すぎる体を使っての押しつぶしだった。 逃げ惑う小さな哺乳類を殺すには最も効率がよいと知っているのだろう。なにせその体には強靭な皮膚のせいでほとんど武器など通らないのだから。 あなたがたが張った罠も、逃走も、抵抗も、全てを押しつぶさんと巨体が迫り、ぐちゅりと人間の肉が崩れ広がる音が。あなたの脳内から生まれたらしかった。 |