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system:CoC6版

使用可能サプリ:CoC6版2010・2015
KP難易度:★☆☆☆☆
当シナリオは、KP側からPCを出し、KPCとして動かすことを前提として作成しております。
そのため、サンプルNPCの能力値などは記載しておりません。ご了承ください。
フローチャート 導入
1:檻
  2:寝台のある部屋
    3:魔術師の書斎
      エンディング

補遺 真相
導入 あなたは、人を殺した。いや、殺そうと思って殺したわけではない。だが、殺してしまったのは事実。
酔っ払い運転だろうか、急に歩道へ突っ込んできた車に向かって、あなたは相手の背中をどん、と突き飛ばしてしまったのです。
自分でも理解し得ない動きでしたが、それは事実。相手は当然車に正面からぶつかり、跳ねられ。すぐに病院へと搬送されました。
それを誰も見ていなかったのは、幸いだったのか、不幸だったのか。
通行人が110番をしたらしく、すぐに警察が到着します。
しかしどんなにあなたが声を張り上げても、運転手の昏迷のせいか車側の過失による事故だと、あなたの言葉など無視して淡々と処理されていくのが見えます。
やがてあなたが耳にしたのは、「搬送先の病院にて、被害者の心肺停止を確認」という絶望的な言葉。
真っ暗になる思いにぎゅっと目を瞑るでしょう。まるで現実を否定するかのように。そうして次に目を開けた時。
そこは潔癖なまでに真っ白な、鉄格子。
辺りを見回せば、施錠された鉄格子の扉と、白く現実感のない壁、そして柱時計やキャビネット、寝台といったいくらかの物品がありました。
あなたの手に生々しく染みついた殺人の感触に、〔1/1d4〕のSAN値チェックです。

※現在地はMAP①を参照してください。
MAP① MAP①
1:檻 それなりの広さのある、見渡す限り真っ白な空間です。三方は壁に囲まれ、一方には天井まで届く鉄格子が嵌められています。
ぱっと見て目に付くものは、ペンキをぶちまけたかのように白いキャビネット、止まった時計、硬い寝台。それっきり。

探索可能箇所:鉄格子・キャビネット・時計・寝台

1-a)鉄格子
ペンキをぶちまけられたかのように白い鉄格子です。外から鍵がかけられており、内側からは開けられないようだとわかります。
鉄格子からは向こうの部屋が見えます。こちら側と同じく現実感のない真っ白な壁をしており、中央に天蓋の閉められた白いベッドらしきものが置かれているのがわかるでしょう。

・主な使用可能技能
【目星】成功で、この鉄格子の上下に白く盛り上がった筋があるとわかるでしょう。まるで鉄格子を挟んで向こう側とこちら側を後から接合したかのようです。

1-b)キャビネット
現実感がないほどに白く、凹凸の少ない四つ足のキャビネットです。引き出しはふたつあり、それぞれに雑音が入っています。
上の引き出しを開けると、雑音の中に誰かの声がこう聞こえました。
《聞こえますかー?……さん、聞こえますかー?反応ありません、すぐに処置の用意を》
下の引き出しを開けると、同じ雑音の向こうにこのようなざらついた声が聞こえました。
《お前はいらない》

・主な使用可能技能
【目星】成功、もしくはキャビネットの下を探すという宣言で一枚の紙がぺらりと落ちているのがわかります。それはどこかの教習用書籍のページを破り取ったかのような内容で、このように書いてありました。
《心肺停止後の再蘇生確率 1分後であれば9割、4分後で5割にまで落ち、10分後ではほぼ見込みはないと見てよい》

1-c)時計
カバーもなく数字も書かれていない、シンプルな文字盤の時計です。長針も短針も、ちょうど真上を指しています。
しばらく見ていても針はぴくりとも動くことはなく、この時計は止まっているのだろうと考えるでしょう。
柱時計の下部、振り子部分も全く動いておらず、また振り子を覆っているガラスケースには鍵がかかっているのがわかります。

・主な使用可能技能
【目星】で振り子の後ろに黒い物体と何かの鍵らしきものがぽつりと置かれているのを見つけます。
どう開けるのかとあれこれ触っているうちに時計の短針を真下に動かした途端、がきん、という音がして短針が文字盤から外れ、それと同時に

ボーン、ボーン……

と、柱時計が重苦しく鳴り響きはじめました。
あなたは見るでしょう。今の今まで動くことのなかった振り子がゆっくり左右に振れ、長針がゆっくり、ゆっくりと時計回りに動き始めるのを。
突然時を刻み始めた時計と、それに基づく嫌な予感に〔0/1〕のSAN値チェックです。
また、文字盤から落ちた短針の先はまるで鍵のようにぎざぎざの溝が掘られており、どうやら《ガラスケースの鍵》であるようだとわかります。
ガラスケースを開け、振り子を避けてそこに置かれた何かを取ると、それは黒く重い何かの鍵と、本であるように見えました。
手触りはつるつるとした硝子であるにも関わらず一見して新しい紙が束ねられた冊子のようであり、しかしまるでなめし革のハードカバー本であるような重みがあり、光をてらてら跳ね返す紙質は羊皮紙めいた色合いでもあります。
視覚と触覚、嗅覚、圧点などの情報がまるでばらばらでちぐはぐな、奇妙な冊子を手にしたあなたは、まるで見る人によってころころ姿を変えていくかのような七色めいた異様な印象を感じ〔0/1〕のSAN値チェックです。
この本は探索者の母国語で《共同統治書》と表題にあり、その内容の大部分はひどくぼやけ、まるで無理矢理消しゴムがかけられたかのように感じます。
墓所に眠るグールの群れ、夢見る人々の生きる姿、夢の月に棲む月棲獣……。まるで夢物語のような事柄がごく当たり前のように書き連ねられているのです。
ほとんどのページが掠れて読み取れない中、このような文字のあるページはやけにはっきりと読み取ることができました。
《夢見る人の罠:浮遊し肉体を離れる魂を術者の元へ引き寄せる法》
《魂の束縛:引き寄せた魂を牢獄に入れ、束縛する法。魂の戻らない体はじきに死に至る。注意:魂、肉体いずれの死においても牢獄は砕け散る》
《魅惑:たったひとりの人間に、短い時間なんでも命令を下すことができる法》

共同統治書を読んだ探索者は、〔1d3/1d10〕の正気度を喪失し、クトゥルフ神話技能に+8
※KP向け情報。共同統治書はその探索者の経験や馴染みのある書物のかたちによって姿や内容を変化させます。

この共同統治書は本物ではなく、この空間を作った魔術師の記憶が強く反映されかたちをとったもののため、正確に記憶の中にある内容や、本来記されていない魔術などが言語として存在します。

また、最後のページには乱れた筆跡でこうありました。
《憎い、憎い、憎い、憎い。こうも人を憎めるものか。お前が今ものうのうと生きていることが口惜しくてならない。死よりも惨たらしい死を、生よりも恐ろしい絶望をもたらしてやろう》

1-d)寝台
固い寝台です。白いシーツと布団が引かれていますが、あまり寝心地はよくありません。
また、シーツや布団を捲るとPCの持ち物が転がり出てくることでしょう。まるでこの寝台に寝かされていたかのように。

・主な使用可能技能
【目星】で寝台の足に違和感を感じます。下を見れば、簡単に動かせるようにタイヤがついているのがわかりました。

檻を一通り調べると、鉄格子の向こうから劈くような悲鳴と、それからぐちゃり、ぐちゅりという何かぬめった音がするのが聞こえます。分厚い天蓋のカーテンがしきりに揺れ動き、中で何かが起きているのがわかるでしょうが、あなたの行動は鉄格子に阻まれてしまっています。
ややあって悲鳴は途絶え、辺りは異様なまでに静まり返ります。固唾をのんで見守る中、あの天蓋のカーテンがゆっくりと開かれました。
そこにあったのは、あなたが殺したはずのKPCの姿。死んだ、殺したはずの人が生きていたという事実に〔0/1〕のSAN値チェックです。
KPCはあなたを見、信じられないという顔で近づいてくると、掠れた声で会話をするでしょう。
KPCもまた、この場所には見覚えがありません。また、自分がPCに突き飛ばされ、車に轢かれた記憶と共に、最後の瞬間PCの手を掴んで引き寄せてしまった記憶があります。
しかしKPCは自分がPCを殺したかもしれない、ということは言いたがらず、聞かれたとしても内心秘めたままでしょう。
PCが促せば、KPCは引っ掛かっているだけの南京錠を手に取ります。
それはダイヤル式ですが、最初から鍵は合っていたようで、簡単に外してしまえるのです。
鍵が落ち、鉄格子が開くとPCは鉄格子の向こう側を探索できるようになります。

MAP②を参照してください。
MAP② MAP②
2:寝台のある部屋 鉄格子の向こうは広く寒々しい、これもまた真っ白な部屋でした。
この部屋には大きな天蓋付きの寝台と、洋服を入れるクローゼット、カーテンのかかった小さな窓、それに抱えるほどの絵画がはめ込まれた黒い扉がありました。

探索可能箇所:天蓋付きの寝台・クローゼット・窓・絵画の嵌め込まれた扉

2-a)天蓋付きの寝台
豪華な天蓋がついた寝台です。天蓋は下ろされ、中はほとんど見えません。捲った先には、一人用のベッドがありました。脇に置かれた何かを計測し続ける機械は波形を表示し、密かな音をたてていました。

・主な使用可能技能
【目星】で、機械の側面に《〇〇病院・備品》というシールが貼ってあることに気が付きます。機械のコードはどこにも繋がっておらず、ベッドの上に散らばっていました。

PCがベッドの下を見るというのであれば、あなたは薄暗く何もないベッドの下からずるりと伸ばされる黒い手を目撃するでしょう。それはPCの腕を撫でさすり、何かを確認するように掴み、触っています。やがて腕は闇の奥にぎらぎらとした赤い目玉を見せ、こう言うでしょう。
「お前はどこから来た?異物だ、排除だ、さっさと……出ていけ!」
PCはそのまま突き飛ばされ、尻もちをつくでしょう。もう一度ベッドの下を覗いても、そこには何もありません。
PCがベッドの下を覗かない場合、KPCが覗いてしまいます。
KPCがベッドの下を覗くと、潜んでいた何かが待っていましたと言わんばかりの速度で腕を突き出し、KPCの頭をがっと掴みます。そうしてどろりと暗い声でこう言うのです。
「お前だ。お前だ。永遠に苦しめ」
暗がりの手はそのまま、KPCの頭を冷たい床に何度も何度も叩きつけます。近くにPCがいたなら、その苦悶の悲鳴はよく耳に届くことでしょう。
やがてくぐもった断末魔の悲鳴が聞こえると、ごろりとKPCは床の上に投げ捨てられます。後に残ったのは頭蓋が割れだくだくと血を広げるKPCの死体だけでした。
PCがこの死体を目撃した場合、〔1/1d3〕のSAN値チェックです。
KPCはしかし、死体となってしばらくの後。ゆっくりと復活します。それはまるでビデオテープを逆再生しているかのような速度でした。
床に広がっていた血がずるずると頭蓋に入り込み、散った脳漿や脳髄も同じように戻っていきます。やがて全ての汚れが綺麗に収まると、同時にぱっくりと割れていた傷口も塞がってしまいました。
KPCはひどく青い顔で飛び起きることでしょう。あなたには確かに死の恐怖も、痛みも残っているのです。
KPCの復活を見るのが初めてであれば、PCに追加で〔0/1d2〕のSAN値チェックです。

2-b)クローゼット
クローゼットを開けると、突然黒くどろりとした物体が飛び出してきます。それは反応する暇もなく素早い動きでKPCにとびかかると、KPCの胸に確かに巨大な穴をぽかりと開けました。
体組織や血液が派手に散り、KPCは呼吸もままならずその場に崩れ落ちます。痙攣する体。瞳孔は虚空を見、ひたひたと死に浸されるように光を失っていきます。肺を、気道を抉り取ったその物体は、ずるりと床を這い、ほんのわずかな隙間から黒い扉の向こうに逃げ込んでしまいました。
KPCの死を目の前で目撃し、〔1/1d3〕のSANチェックです。
流れる血液は、しかしじきに広がるのを止めてしまいます。
それはベッドの下で死んだ時と同じように、奇妙な逆再生を起こしながら復活していきます。胸元の傷がすっかり塞がる頃には、KPCは咳き込みながら息を吹き返すことでしょう。
KPCの復活を見るのが初めてであれば、PCに追加で〔0/1d2〕のSAN値チェックです。

中にはKPCが普段着ているような服がいくつかあります。また、KPCが普段使っている時計(腕時計や目覚まし時計、もしくはスマホでも可)が置いてありますが、時計のカバーには大きく亀裂が入ってしまっています。
それはいかなる時計であれ、事故の衝撃なのかはわかりませんがちょうど6時を指したまま止まってしまっています。

2-c)窓
カーテンのかけられた窓を覗くと、少しの暗闇と、それからどこかの病院らしき明るい一室が見えます。
それはまるで演劇の舞台でも見ているかのように壁が切り取られ、忙しそうに動き回る看護師や医師、また大仰すぎるほどに大きな機械が見えます。
中央のベッドには病人でしょうか、誰かが寝かされているようで微かに布団が膨らんでいるのが見え、たくさんの機械に繋がれ終始機械音がしているのがわかりました。
あなたがどんなに叫んで窓を叩いたとしても窓はびくともせず、また誰も声が聞こえないかのようにこちらを無視しています。

・主な使用可能技能
【目星】で室内中央のベッドに寝かされている人の顔がはっきり見えるでしょう。ベッドに寝かされ、機械に囲まれ。現在も心拍や酸素飽和度などを計測され続けているのは、KPCその人でした。
ここでPL自身が気づく、もしくは【アイデア】に成功することで、導入で聞いた言葉の意味を悟ることができます。
生きているのはKPC、事故にあったのはふたり、すなわち。死んだのはPC自身だったのだと。
自分自身が死んでいるという可能性に気が付き、〔1/1d3〕のSAN値チェックです。
KPCに強く問い詰めれば、KPCは渋々ながら話してくれるかもしれません。突き飛ばされたその瞬間、思わずPCの手を掴み、引き寄せ。突っ込んでくる車にふたりで撥ねられたのだと。

2-d)絵画のはめ込まれた扉
黒い木材で作られた扉には、鍵がかかっていました。
絵画には中世ヨーロッパのものらしき景色が描かれてるのがわかります。
畑に出る農奴、シマ模様がある見覚えのない馬、異様なまでに青い川やたくさんの猫。遠景には薔薇色の建物が描かれ、見覚えこそないものの長閑な光景が広がっています。
絵画の中央には、一部が崩れた寺院らしき建物と、その中で椅子に座り人々にかしずかれている男性が描かれています。男性は背に光背を背負っており、明らかにこの絵の中の誰よりも地位が高いとわかるでしょう。

・主な使用可能技能
【目星】で絵画の額装に埋もれるようにしてプレートが取り付けられていることに気が付きます。
プレートにはこうありました。《ウルタールの大神官アタル ネルソン・ブレイクリー》
【芸術:絵画】に成功した場合、このような絵画は画壇に上がったことがないとわかるでしょう。強いて言うのであれば、1900年代に登場し、幻想的な風景画を得意とした画家『ネルソン・ブレイクリー』のタッチに似ていると言えます。
【夢の知識】に成功すれば、これはウルタールという都市に住む夢の国の大神官、アタルを崇拝する絵だということがわかります。アタルはドリームランドという地についての多くの知識、多くの魔術を知り、この世界でも有数の魔術師であるということを知っているでしょう。

※KP向け情報。ネルソン・ブレイクリーはドリームランドサプリ掲載のシナリオ、『ピックマンの弟子』に登場するドリームランドを描き続ける画家です。
彼は数多のドリームランドに関する作品を残しており、もしかしたらウルタールの作品も手掛けていたのかもしれません。

MAP③を参照してください。
MAP③ MAP③
3:魔術師の書斎
(黒い扉の先)
黒い扉を開けると、目の前にあったのは奇妙な部屋でした。
明かりらしきものは見えず、どこかぼんやりとした薄暗さがあなたがたの不安を掻き立てます。黒い木肌に囲まれた室内に侵入すると、突然どこからかぱぱっと目に突き刺さるような光が射してきました。
室内に侵入した探索者とKPCはMP18との【MP対抗】を二回行ってください。
失敗した数だけあなたのMPは失われ、室内にいる“何か”に食われたようだとわかるでしょう。
全て成功したのであれば室内は薄暗いままであり、【目星】【図書館】に-20の補正がかかりますが、探索できないということはありません。
しかし、一度でも失敗しMPを食われたのであれば、あなたがたは室内の変化に気が付きます。
色のない光が射した先、今の今まで暗がりだった場所に、ぴかりと大きなふたつの光が灯るのです。
それはまるで蛍のように空中をゆっくり泳ぎ回り、室内を照らしていきます。目を凝らせば、掌ほどの大きさの両生類。四本足をじたばたさせながら水を泳ぐように空を泳ぐランプ=イモリを目撃しますが、SAN値減少はありません。
よく見れば、室内には計6匹のランプ=イモリがいますが、光がついているのは探索者のMPを食った個体のみです。探索者のMPを食べれなかったランプ=イモリはひどくやつれ、放つ光も切れかけの電球のように微かにちかちかするだけでしょう。
探索者が望むのであれば、残りのランプ=イモリにもMP1づつ給餌することができます。
ランプ=イモリたちに照らされれば、室内の様子は幻想的に浮かび上がるでしょう。
ここにはごちゃごちゃと物が乗った大きな机、それに黒い背表紙の本がぎっしり詰め込まれた本棚があります。

・主な使用可能技能
【目星】または机を探すという宣言で、古い羊皮紙にペンで書かれたいくつかの走り書きを見つけます。
《我々は深い階段を下って夢の世界へと向かう。夢の体とはすなわち魂である。魂の束縛にかかった人間が夢の階段を下ることができないのは、既に魂を夢の世界に囚われているからではないかと考える》
《ただ殺すなどでは飽き足りない。私は呪いをかけよう。この魂の牢獄が、お前そのものである呪いだ。自分の毒で自分は殺せない。お前は死に続けるが、同時に生き続ける。苦痛だけがお前の魂に降り積もっていくだろう。牢獄が砕け散る日は永遠に訪れない》

【図書館】または本棚をよく探せば、非常に汚れた紙束が見つかります。
《アタル様は人に知識を授けることを快く思わない。それは知識が必ず悪用されると思っていらっしゃるからだ。だが、それでも少しづつ漏れ聞こえる知識をここに書き留める。古の賢者ダルシスが記したという古代ルーンの言葉、夢を見るものたちの世界の則。このドリームランドは覚醒の世界と密接に繋がって……ランプ=イモリたちでさえ、覚醒の世界には存在するはずもない生物……万能であり有能たる我々は夢見人と呼ばれ……夢見人にとっては生きる体が主であり、行動する魂は従である。すなわち夢の体──魂が死んだとしても、……おまけに、肉体だけが死……夢の世界で生きる……。我々の目の前に示してくれたのはかのセレファイスの王だ。夢見人は最初からふたつの命を……肉体と魂、その双方が……》
ドリームランドについての知識が書かれた紙束を読んだ探索者は、【夢の知識】に+2を得るでしょう。


黒い部屋を探索し終えると、ごぼりと壁からタールのような物体が染み出します。それは見る間に人の巨大な顔を形作り、そうして口から粘性のあるおぞましい言葉を吐き出しはじめました。
それは探索者のへ恨み、つらみ。
「かわいそうに、巻き込まれて。お前はいらない。不純物だ。ここから追い出してやろう。魂が死ねばお前も完全に成仏できるだろうからなあぁ」
その黒い染みは床に落ち、侵食し、どろりと黒いヘドロへ変貌していきます。粘性のある表面から気泡が膨れ、弾け、飛び散った飛沫が更に壁を家具を腐食し腐らせじくじくと天井へ上り、部屋全体を覆っていきます。
その動きはまるで意思あるスライムにも思えました。
あっという間にあなたがたを取り囲み、増殖を続けるそれら。ぼたり、と天井の一部が剥がれ落ち、向こう側に奇妙な黒と虹色とで塗りつぶされた空間が見えます。
慌てて辺りを見回せば、黒に侵食された空間に、唯一白が残っているのが見えました。
それはあなたが閉じ込められていた、あの鉄格子の向こう。黒いヘドロはその先には進もうとせず、ぼたりぼたりとその場で床を、天井を溶かし穴を開けていきます。
鉄格子に飛び込むのであれば【DEX*6】で判定をさせてください。
失敗した場合、あなたの片足はこちらを逃がすまいとするヘドロに捕まれ、じゅうと音を立てて焼け落ちていきます。
それは激痛を伴いながら皮を溶かし、肉を焼き切り。骨にまで届き。
神経の一本一本を引きちぎられるかのような怖気と痛みと恐怖を得て、それでも焼き切れたことで自由になった身体で鉄格子の中に転がりこむことができました。
足を失った探索者、もしくはKPCはHPを半分(切り上げ)にしてください。このHP減少によるショックロールはありません。

おふたりが鉄格子の向こうに飛び込んだ途端、あの大きな部屋は完全にヘドロに覆われどろりと崩れ、なくなってしまいます。鉄格子から見えるのは背筋が凍るほどに完全な闇。
そこだけがぽつりと白い室内に、ボーン。ボーン……と柱時計の音が鳴り響きます。時計の針は、9の方向を指しているようでした。

KPCが口を開きます。
「ずっとここにいて」
「あなたを殺してあげる」
「私を殺して」

三つの選択肢は、KPC自身の言葉で好きなものを放ってください。シナリオとして望ましいのはPCがまだ思いついていない選択肢でしょうが、KPCが言う言葉として最も相応しいもので構いません。


PCの回答によって、エンドが分岐します。

KPCとここにいる→エンドA
KPCに殺してもらう→エンドB
KPCを殺す→エンドC
MAP④ MAP④
エンディング エンドA【いつまでもふたり】
あなたを殺せないし、ひとりにもできないと選んだ言葉。その言葉を聞き届けるかのように、時計の針が再び真上までやってきました。
かちり、と鳴る音。響き渡る鐘の音。それは間延びした音を数度響かせ、そうしてその全てが鳴り終わった時。ことん、と音をたてて長針が外れ、落ちてしまいました。左右に振れる振り子はだんだんと力を失い、なにもなくなった文字盤だけがその場に残り、この時計は二度と時を刻むことはないだろうということがわかります。
音のなくなった空間で、時間もなくなった空間で。悪意も溶け落ちた白の中、生きることも死ぬこともなく、ふたりの意識はふたりきり。どこまでも、いつまでもふたりきりで。
狂うほどの閉鎖空間が例え破られたとしても、あなたがたの肉体はとうに腐り落ち、少なくとも覚醒の世界に戻ることはあり得ないでしょう。
おやすみなさい。あなたがたはロストしました。どうか、今はひとときの安寧を。


エンドB【ひとりきり】
あなたはKPCに、自分を殺してほしいと頼みます。時計の針はまだ動いており、終わりの時を間近に刻んでいました。KPCはあなたの願いを聞き届けるでしょう。それは罪悪感か、それとも愛情か、憐憫か。
ゆっくり首にかけられた手があなたの呼吸を潰し、意識を刈り取り。
明確に死を見た瞬間。
あなたは体中に激しい痛みを感じ、ついでにどこからか転げ落ちたような感覚を得ます。
ぐらぐらする視界で、あなたは見るでしょう。驚いた看護婦の顔を。彼女は慌ててその場を駆け出し、医師を呼びに行きます。どうやら、ストレッチャーで運ばれていた途中だったようです。
集中治療室に移されたあなたは、ベッドで眠るKPCの姿を見るでしょう。今もひとりで、誰もいないあの部屋に囚われているその人。置き去りにされた肉体は日に日にやせ衰えていき。1週間も経たぬうちに。
静かに、息を引き取ったと知るでしょう。
おかえりなさい。探索者はひとり、これからも生き続けるでしょう。
悪夢からの生還として1d10の正気度を喪失、また夢を見る力を失い(ドリームランドサプリp16)生還報酬として1d10の正気度を取得してください。


エンドC【ただいま、おかえり】
あなたはKPCの首に手をかけます。殺そうという意思をもって殺す。覚悟と、決意と、恐ろしいまでの苦悩をもって。
その手で肉を掴む。硬直する筋肉と、どくりどくりと鼓動を伝える静脈と。ぎちり、ぎちりと肉を絞めていく。苦し気な息が漏れる。抵抗しようと思わず上がる手が意思の力で抑えられ、生きたい肉体が微かにもがく。
どれだけそうしていたでしょう。ただただ肉の手応えに吐きそうになりながら絞め続けると、ある一瞬にKPCの体ががくんと崩れ落ちるのがわかりました。
心臓に手を這わせる。口元に指を近づける。瞳孔を見る。ありとあらゆる生命活動を失った肉の塊はただ重く、ずっしりとその手の中に奪ったものの重みを見せつけていました。
ふと、白い壁に亀裂が走ります。ぴしり、ぱきりという硬質な音。それはコンクリートが割れる音でも、鉄筋が歪む音でもなく。まるでガラスが砕けていくように、空間の全てにヒビが入っていく音でした。
あなたの目の前で、すべての空気が、闇が、音が、物質が、魂が。外からの圧力に耐えかねたように壊れ、崩れ、ぱきりと。地面さえも崩落しあなたとKPCはふたり、闇の中へ投げ出されました。
視界の全てが黒に塗りつぶされ、落下する浮遊感に目を閉じ、意識が途絶え。
は、っとあなたは気が付くでしょう。目を開けたのは病院の廊下。こちらを驚いたように見下ろす看護師の姿が見え、そうしてすぐに集中治療室に移されます。あなたは一度心肺停止状態に陥っていたものの、蘇生したのです。
どこかで見たような大仰な機械が備え付けられた集中治療室では、KPCが静かに目を閉じていました。そうして隣のベッドにあなたが案内された時、ゆっくりと目を開くのです。
おかえりなさい。あなたがたは魂の牢獄を破り、現世へ戻ってくることができました。
生還報酬として1d10+1d6の正気度を獲得してください。
真相 KPCに恨みを持つ魔術師がいた。それは逆恨みかもしれないし、真っ当な復讐かもしれない。
魔術師はドリームランドに精通し、そしてある手段に思い至る。そのために運転手を昏迷させ、魅了の魔術でPCにKPCを突き飛ばさせた。
しかしKPCは怪異によって死ぬ寸前、思わずPCの手を掴み、共に事故にあってしまう。
これにより魂の束縛、夢見る人の罠にPCが入り込み。KPCを夢の牢獄に置き、永遠に苦しみを与えるという魔術師の目論見はゆっくりと狂い始める。
導入でPCが聞いた死亡報告は自分自身のものであり、KPCはシナリオが終わるまでは生きている。
そのため夢の核となっているKPCの魂は殺されることで夢から覚め、また夢の世界に囚われていたPCの魂は死後間もない自分の身体に戻ることで息を吹き返すことができるだろう。

この牢獄を完成させた時点で魔術師が生きているのかどうかはわからない。何故なら、ランプ=イモリは飢えていたからだ。その怨念だけが働き、魂の牢獄を形作ったのかもしれない。

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